毎秒5センチメートル

 めずらしく映画を観に行ってきたので久しぶりに日記でも書いてみようかなと。


 実に繊細に描かれた花鳥風月に主人公のモノローグが深く染み入る。
背景画は写実的で、主人公とヒロインの微妙な心境はリアリティを盛り上げる。
短編連作、計70分間で描かれるのはどうしようもない距離と時間。

 新海誠の短編アニメ映画です。今回はSF要素を排した意欲作とこのとです。描写はいつも通り実写と見まがうほど線が細く写実的です。そのリアルな背景画に登場人物の心境を重ねる演出は、オーソドックスにして効果絶大。前作ではただ「綺麗だねー」と眺めるしかなかった静物描写が、意味を持ってくるのです。演出は前作に比べて巧みになったという印象でした。
 短編連作という構成は限られた尺で感動を増幅させる為に結構使われる手法で、特に目新しい物でもありません。短編連作といっても同一設定で複数の登場人物達を描く物と同一設定で同一人物を描く2パターンがありますが、本作は後者。単に時間的にカットされているだけです。ただちょっと気になったのは、第二話と第三話が隔絶しすぎているように感じられた点。何年も時間が空くのは良いんだけど、その間に変化した心情を説明する描写が欲しかった。本作のメインテーマに繋がるだけに少し残念でした。

−−−−−ここからネタバレかも−−−−−
 テーマはずばり「隔絶」。どんなに離れていても愛は通じ合うみたいな安っぽい台詞も、膨大な時の流れを前にして全く無力。それでも想いの力は…… 
結構ありふれたテーマですが、小道具の使い方が実に巧みで雰囲気を盛り上げてくれます。例えば115系電車の唸るようなモーター音は不安を加速させ、冬の雑踏は徒労感を滲み出させます。一方、澄み切った夏の夕暮れの空、パンアップするフレームとともに真っ直ぐに飛翔するH2ロケットは無限の可能性を感じさせてくれます。コンビニの店内で流れているBGMは90年代後半に流行ったちょっと古めの曲。このへんは20代中頃の人が青春時代を共に過ごした曲でもあり、ノスタルジーを誘っています。
極めつけは山崎まさよしのテーマソング。本編にボーカル曲を流す演出はアニメとかゲームではよく使われますが、本作は後ろの絵が懲りまくってます。アングルと光線状態で心情を表し、人物のポーズとカット割りで状況を説明する。第一話と第二話の映像をフラッシュバックさせたと思ったら現代に戻り。そして最後に桜の舞うシーンは実に清々しい気持ちにさせてくれます。
−−−−−ネタバレここまで−−−−−


 TVアニメでは不可能な構成、ゲームでは実現できないテンポ。新海作品では綺麗な背景画に注目が行きがちですが、本作はその美しさをストーリーに巧みに活かした作品といえるでしょう。